どんなに人手不足でも、もちろん誰でも採用すれば良いということではない
テレビCMやネット、駅の看板などなど、大手企業の広告は至る所に掲出されていて、誰もが知っているということもあり、採用するに当たっても多くの応募者が集まり、その中から自社に合った人を選ぶという「贅沢」なことが出来ます。
一方で、規模の小さな会社ではそうはいかないことが少なくありません。
せっかく応募してくれた人なのだから、まずは採用する方向で検討する。人手不足が続く現在では、そのような会社も多いのではないでしょうか。
以前の記事でも書いたように、人手不足に対応していくためには、採用の間口をある程度広げること自体は必要だと思います。
ただし、そうだからといって、誰でも採用すれば良いということではもちろんありません。
面接では非常に印象が良かった人でも、実際に働き始めてみると、期待していたほど成果を出してもらえなかったということはあります。
そうなると、せっかく時間やお金を費やして採用したのに失敗したと思ってしまいますが、もっともこの場合は本人だけに問題があるとは限りません。
会社の教育体制が十分でなかったり、本人に合わない仕事を任せていたりすることもあるので、教え方や配置を変えることで力を発揮するようになる人もいるでしょう。
私がそれ以上に注意したいと思うのは、仕事の能力そのものではなく、誠実さや他者への配慮、会社のルールを守ろうとする姿勢に問題がある場合です。
「感じが良い人」と「一緒に働きたい人」は必ずしも同じではない
採用面接という短い時間の中で、その人のすべてを見抜くことはできません。
しかも、応募者も採用されるために面接を受けています。当然ながら、自分を良く見せようとします。
笑顔で受け答えができる。質問にもハキハキ答える。経歴にも特に問題がない。
そのことを以て、「この人なら大丈夫そうだ」と判断してしまいたくなる気持ちはよくわかります。人を見極めようとすると神経を消耗しますし、早く終わらせて得意な本業に注力したくなるのが人情というものなので。
ただそれだと、採用後に思わぬ問題が見えてくることがあります。
例えば、自分が失敗したのにそれを他人の責任にする。上司と部下で態度を変える。会社のルールを自分に都合よく解釈する。他人の成果を自分の手柄のように話す。気に入らない人の陰口を言い、周囲を巻き込んでいく。
一つひとつは見過ごそうと思えば見過ごせるレベルに見えるかもしれません。
しかし、そのような言動が積み重なれば、その人一人の問題では済まなくなります。
今いる真面目に働いている社員が余計な仕事を抱えたり、人間関係に気を遣ったりするようになれば、職場全体の生産性にも影響します。
だからこそ、「面接で感じが良かったか」だけではなく、その人がこれまでどのように他者と関わってきたのかを見る必要があります。
面接では「過去の具体的な行動」を聞いてみる
そのために有効なのが、抽象的な考え方だけではなく、過去の具体的な経験について質問することです。
例えば、
「これまで仕事で失敗した経験と、そのときどのように対応したか教えてください」
「上司や同僚と意見が合わなかったとき、どのように対応しましたか」
「自分では納得できないルールや指示を受けた経験はありますか。そのときどうしましたか」
「周囲の人から注意を受けて、自分の行動を変えた経験があれば教えてください」
といった質問です。
大切なのは、模範解答を言えるかどうかではありません。
失敗した経験を聞かれたときに、すべて他人や会社のせいにしていないか。
意見が対立した場面で、相手の事情や考え方にも触れているか。
注意された経験について、自分にも改善すべきところがあったと振り返ることができているか。
そうしたところを見ていきます。
もちろん、一つの回答だけで「この人は問題がある」と決めつけるべきではありません。
それこそ戦力になってくれたであろう人まで断ってしまっていたら、いつまで経っても採用できなくなってしまいます。
気になる回答があれば、「そのとき相手はどう考えていたと思いますか」「今振り返ると、違う対応はできたと思いますか」など、もう一段掘り下げて聞いてみると、その人の考え方がよりはっきり見えやすくなります。
その上で回答内容やしぐさなどを見て他責思考が強いと思われたら、その後の面接などではかなり厳しい目で見るようにすべきでしょう。
面接担当者の「なんとなく」を減らしておく
もう一つ重要なのは、採用する側にも確たる基準を持っておくことです。
「社長と話が合ったから」
「元気が良かったから」
「何となく真面目そうだったから」
という感覚だけで採否を決めてしまうと、人によって評価が大きく変わります。
例えば、
「失敗したときに責任を引き受けられるか」
「他者の立場を考えて行動できるか」
「ルールと自分の考えが違ったときに、適切な方法で意見を伝えられるか」
といった、自社が大切にしたい行動をあらかじめ決めておき、それに沿って質問する方が判断しやすくなります。
ただし、ここでいう「人柄を見る」ということは、応募者の家庭環境や思想・信条などを調べることではありません。
採用選考は、あくまで仕事をするうえで必要となる適性や能力を基準において行う必要があるということを忘れてはなりません。
合わせて、その人のストレス耐性を測るために、いわゆる圧迫面接を未だにしてしまっているという話も耳にしますが、今のご時世SNSなどで晒されたりして悪評を流されるようなことは愚かしいことと言わざるをえません。
採用して終わりではない
とはいえ、細心の注意を払って面接を行っても、その時間ですべてを見抜くことは残念ながら不可能と言わざるをえません。
特に元々社員の少ない中小企業にとっては、採用した人が周囲に悪影響を及ぼすような人だった場合は致命的になりかねません。
「問題がある社員だから辞めてもらえば良い」とできれば、会社の側から見れば楽かもしれませんが、会社が恣意的に解雇できるほど実際の労務管理は単純ではありません。
労働契約法では、解雇について「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められており、会社が問題だと思っただけで自由に解雇できる仕組みにはなっていません。
そのため、予め採用後の備えも必要になります。
具体的には、会社として守ってもらうルールを就業規則などで明確にし、問題となる行動があれば、その都度きちんと指導する。そして、どのような問題があり、会社がどのように対応したのかを記録しておく。
中でも、就業規則には解雇事由を記載する必要があり、このような制度や体制を作っておくことで、初めて対処できると言えます。
その意味でも、まずは採用段階でできる限りミスマッチを減らすことと、そして採用後に適切な労務管理を行うことは、セットで考える必要があるのです。
一番大切なのは、今働いてくれている人
これまで何度か採用について書いてきましたが、一番大切にするべきなのは、今いる社員の皆さんであるということを何より念頭に置いていただきたいと思います。
問題のある人を一人採用した結果、その対応に追われ、真面目に働いている社員が疲弊してしまっては本末転倒です。
そしてもう一つ忘れてはいけないのは、最初から問題のある人ばかりではないということです。
もともとは真面目に働いていた人でも、会社が適切に評価しなかったり、問題を放置したり、不公平な扱いが続いたりすれば、不満を溜めていくことがあります。
採用で人を見ることは大切です。
しかし、それと同じくらい、採用した人が長く真面目に働き続けられる会社をつくることも大切です。
誰でも採用すれば良いということではありません。
同時に、良い人を採用できればそれで終わりということでもありません。
採用とその後の労務管理。この二つをつなげて考えることが、結果として、今会社のために働いてくれている社員を守ることにもつながるのではないでしょうか。
※この記事はnoteにも掲載しています。
